2007年「ひふの日」記念 市民公開講座
皮膚科医と考える はだ・つめ・頭皮のケア 〜365日、調子のいい肌のために〜

日時 10月21日(日)13:30開演
会場 東商ホール(有楽町)
招待数 約600名(入場無料)
採録 日本経済新聞 日経プラス1
(11月10日掲載予定)
講演内容
総合司会
日本臨床皮膚科医会常任理事・小林皮膚科医院院長 小林 美咲先生
プログラム
「皮膚の日」について
日本臨床皮膚科医会会長・浦安皮膚科院長 加藤 友衞先生
演題1 「肌と頭皮のケア〜ドライスキンを知り正しいケアを〜」
東京女子医科大学皮膚科教授 川島 眞先生
演題2 「爪のトラブルの正しいケア」
日本臨床皮膚科医会副会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥先生
総合討論 応募時の質問に回答

シンポジウムレポートインデックス
はじめに〜日本臨床皮膚科医会からのご挨拶〜
各先生の講演内容のご紹介
「はだ・つめ・頭皮のケア」について、先生方とのQ&A

 

11月12日は、「皮膚の日」。
「いいひふ」=「1112」の語呂合わせから、日本臨床皮膚科医会が制定したもので、毎年この日に合わせて、全国各都道府県で皮膚科医が、一般の方々を対象にさまざまな行事を開催しています。
皮膚についての正しい知識を学び、肌を美しく健やかに保つきっかけ作りとなる日。去る10月21日は有楽町・東商ホールにて、2007年「皮膚の日」を記念する市民公開講座が開催されました。

 

今年のテーマは、「皮膚科医と考える はだ・つめ・頭皮のケア〜365日、調子のいい肌のために〜」。

 

当日は、心地よい秋晴れに恵まれ、開場とともに、若い女性や男性、ベビーカーで赤ちゃんをお連れのご夫婦、年配の方など、幅広い年齢層の方々が来場されました。

 

「皮膚だけでなく、頭皮や爪を診るのも皮膚科医の役目です」

「皮膚の日」について
日本臨床皮膚科医会会長・浦安皮膚科院長 加藤 友衞先生

 

皮膚は生きた細胞でできており、常に新しい細胞に生まれ変わっています。汗をかいて体温調節をしたり、体の中の水分が外に逃げないようにしたり、外界の刺激から体を守るバリアの役目も果たしています。これは頭皮や爪の場合も同じですが、皮膚科に相談に来る方には、「髪の毛は皮膚科で大丈夫でしょうか?」「爪は診てもらえますか?」と、お尋ねになる方がたくさんいます。皮膚だけでなく、頭皮や爪を診るのも皮膚科医の役目です。今回のテーマは「はだ・つめ・頭皮のケア」。肌以外にトラブルを抱えている方も大勢いらっしゃるかと思います。本日このテーマのもと、お二人の先生にご登壇いただきますが、ぜひ日頃のケアの参考にしていただければと思います。

 

この日の講演では、
東京女子医科大学皮膚科教授 川島眞先生
「肌と頭皮のケア〜ドライスキンを知り正しいケアを〜」
日本臨床皮膚科医会副会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥先生
「爪のトラブルの正しいケア」

のお二方が登壇されました。

 

「皮膚の外側、角層のケアが大切です。」

「肌と頭皮のケア〜ドライスキンを知り正しいケアを〜」
東京女子医科大学皮膚科教授 川島眞先生

 

寒くなると肌は乾燥しやすくなります。かゆみ、フケなど皮膚のトラブルを抱える人も少なくありません。

乾燥を伴う二つの代表的な疾患に、アトピー性皮膚炎と老人性乾皮症があります。

アトピー性皮膚炎の人の肌を調べると、健康な人の肌に比べ、皮脂量・水分量が少なく、炎症が無い場合も乾燥しています。こうした肌は、外からの刺激に非常に弱いことが分かっています。

皮膚の保湿、水分量を決める要素は「皮脂」、アミノ酸などの「天然保湿因子」、角質細胞間の脂の膜「角質細胞間脂質」の三つです。

通常、角質細胞間脂質は角層の間できれいに層を成しますが、減少するとここが隙間になり、保水機能や刺激から肌を守るバリア機能が低下します。角質細胞間脂質の50%以上を占めるのがセラミドです。アトピー性皮膚炎の人の肌が乾燥し、刺激に弱いのは、一つにはこのセラミドの減少で説明することができます。

角層が健康でないと、いくら水分を補給しようとしても、それを保ち、刺激から守る機能が働きませんからなかなか良くなりません。まず外側の角層をしっかりケアする、これが大事です。

一方、これからの季節、高齢者の方に起こりやすいのが、主にひざから下の部位に強い乾燥が生じる老人性乾皮症です。

高齢者は若者に比べ、皮脂、セラミド、天然保湿因子が少なく、肌に水分を補う発汗作用も少ないため、肌が乾燥しやすいのです。

肌の乾燥の対策としては保湿剤を塗ることが挙げられます。保湿剤は、角層に水を蓄える、膜を作ってバリアの役目をする、両方の機能を持ったものを選んでいただければと思います。

また、熱いお風呂が気持ち良いという人もいますが、肌に異常のあるときは刺激を避け、洗浄剤もなるべくマイルドなものを使います。

さて、頭皮の話に入りましょう。

頭皮は、額や頬など他の部位より水分量、バリア機能ともに低く、外からの刺激に弱いことがわかっています。また、この部位の感覚は鈍感で本人がトラブルに気づきにくいです。敏感肌の人ほど、頭皮のトラブルに気づかないとの調査結果も出ています。

アトピー性皮膚炎の人を対象としたある調査では、全員に乾燥、フケ、赤みなどの症状が見られましたが、トラブルを自覚して、肌に合ったものを日常的に利用している人はほとんどいませんでした。

こうした方に低刺激のものを使用してもらい、正しい使い方を指導したところ、全体的に状態は良くなりました。日頃使用する洗浄剤は、自分に合ったものを選択することが大切です。

敏感な肌の方はもちろん、健康な肌の方にも、肌にやさしいものを使ってケアしてほしいと思います。

 

「爪には、指先の皮膚を守る大事な役目があります」

「爪のトラブルの正しいケア」
日本臨床皮膚科医会副会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥先生

 

爪は骨の一種ではなく、皮膚の一種です。一見、硬くて骨のように見えますが、表皮の角質が変化したもので、表面は皮膚で覆われています。

硬い部分は硬ケラチンと呼ばれるものでできていて、三つの層に分かれています。合板のように、縦、横、縦、の繊維が重なった構造で、間には水分が含まれています。

爪はとても大事な部分です。爪がなければ、指先に力が入らず、小さなものが拾えなかったり、指先に傷を負いやすくなります。

爪の変形やトラブルには、乾燥、水虫や湿疹など皮膚の疾患が原因となっている場合もあれば、なかには内臓異常を示している場合もあり、いろいろな原因が考えられます。水仕事やマニキュアをつけたりはがしたりする習慣が、爪の乾燥、さらには皮膚の疾患や変形を招くこともあります。

日頃のお手入れでは、

  • 深爪をしないこと
  • ささくれを引きぬいたりして甘皮を傷つけないこと
  • 巻き爪にならないよう、自分に合った靴を履くこと、爪は端を丸く切らないこと
  • マニキュアは、爪の周りの皮膚に付着しないようにし、除光液で拭き取った後はクリームで保湿したりすること

これらが重要です。

爪に気になる変色や変形が見られるときは、ぜひ皮膚科の専門医を訪ねてみてください。

爪は皮膚の一部です。日頃のケアを含め、今日お話ししたことが皆様の日常生活に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

講演の後は、事前に参加者の皆さまから寄せられた質問にお答えするQ&A。総合司会を務める日本臨床皮膚科医会常任理事小林美咲先生の司会のもと、講演された先生方に、「はだ・つめ・頭皮のケア」に関するさまざまな悩み、疑問にお答えいただきました。

Q体がかゆくなるのですが、なぜでしょうか?また、どうすればかゆみがおさまりますか?

仲先生
かゆみの原因はいくつかありますが、冬になって考えられるのは乾燥です。保湿剤の使用をおすすめします。また、かゆみは一般的に体が温まると起こりやすいので、辛いもの、熱いものを避ける。冷やすと逆におさまりますから、冷たいタオルを患部に当てるのも一つの方法です。掻くことは絶対にしないでください。

川島先生
かゆみの多くは乾燥から始まるので、保湿をしっかりすることが対策につながります。重い内臓疾患との関係性では、それほど心配することは無いと思いますが、抑えられない強いかゆみがあるときは相談してください。

Qスキンケアはどういうふうにしたらよいでしょう。どういったものを選べばよいでしょうか?

加藤先生
角層が持っている機能、細胞の間を通って水分が逃げるのを細胞間脂質が防ぐこと、細胞の中に保湿成分があること、皮脂腺から皮脂が出て膜を作ること、こういった役割を助けてくれるスキンケアが良いわけです。油を塗ればたしかに水分は出て行きませんが、先に述べた機能があるか、保湿成分が入っているかがポイントになります。

川島先生
よくコラーゲン、ヒアルロン酸を塗るとしわがのばせる、などということが言われますが、分子が大きいので表皮のさらに奥に入るというわけではありません。表皮というのはそれぐらいしっかりと外部からの物質の侵入をブロックしているので、表面にとどまります。これらの成分は皮膚の表面に存在して水分を保持することができる性質を持つため、表皮や真皮に異常が起こりにくくなるという意味で役立つでしょう。

Qシャンプーした後はすぐ乾かした方がいいでしょうか?

仲先生
シャンプーは、表皮に負担が少なく、刺激の少ないものを使い、指の腹で洗います。もちろん濡れたままというのは良くないので、あまり熱くならないように気をつけて乾かすようにしてください。

Q先生方の日頃のスキンケア方法を教えてください。

加藤先生
風呂の後は乾燥しやすく、肌がかゆくなってしまったり、顔の皮膚が突っ張ってしまったりします。顔や手、わきの下など汚れやすい部分以外は洗いすぎず、洗うとしても素手で洗うようにしています。洗いすぎないこと、保湿剤を使うこと、この二つを心掛けています。

川島先生
日焼け止めを使うようにしています。スポーツのときは、以前から日焼け止めを使ってきました。最近の日焼け止めは昔のようにやたらに白くならずに、機能の高いものもあります。

仲先生
お風呂に入っても石けんであまりごしごし洗わないようにして、必要なところだけ、手で泡立てて洗っています。私も外へ出て日に当たるときにはできるだけ日焼け止めを塗るようにしています。

 
 
   

市民講座終了後、回収したアンケートによると、皮膚科の専門的なお話をわかりやすく聞くことができ、大変参考になったとのコメントを沢山お寄せいただきました。みなさまに日々のスキンケアの大切さを認識していただく良い機会となったイベントとなったようです。